研究概要 |
本研究は^<19>F-MRS法によるラット摘出灌流心の細胞内カルシウム動態と^<31>P-MRS法によるリンエネルギー代謝動態の両面から,心機能発現や心筋細胞内情報伝達機構を臓器レベルで解明するための計測手法を確立する目的で立案し,下記の成果を得た。 1.既存FT-NMR装置(磁場強度6.3T)に適応する^<19>F核専用プローブを^<31>P核をも測定可能とするためにダブルチューニング方式による改造を行ない,両核種ともにS/Nや分解能など満足できる性能を有することを確認した。 2.摘出灌流心臓を対象に,^<19>Fをラベルした5F-BAPTAをエステル化した指示薬を用い,^<19>F-MRS法で心筋細胞内カルシウムを計測するための最適測定条件を検討した。心機能への影響が少なく,かつ高感度で^<19>F-NMRスペクトルが得られる濃度及びloading時間を検討し,BAPTA濃度5mM,1時間のloadingで良好なスペクトルが得られることを明らかにした。また,心周期内の各時相での^<19>F-MRS測定はペーシング電極の装着により,^<31>P核に比較して感度低下が避けられず,さらに測定条件などを再検討中である。 3.当初の予想以上にBAPTAの心機能に対する影響が無視できず,虚血負荷前のコントロールデータの蓄積と心筋細胞内Ca濃度の変動幅を検討中である。また,マグネシウムを長期投与した食塩感受性ラットの摘出灌流心を対象にペーシング同期^<31>P-MRSによりリンエネルギー代謝の心周期内変動を観察した。この結果,ATP,クレアチンリン酸(PCr),無機リン(Pi)の心周期内最大変動幅は低塩食群に比べて高塩食群で有意に大であり,マグネシウム投与によってこれらの変動幅を低塩食群と同程まで改善できることを明らかにした。 4.摘出灌流心にノルアドレナリン0.2mg/kgまたは0.4mg/kgを2時間持続投与後のリン代謝動態を観察した。この結果,ATPとPCrの減少及びPiの増加を認めた。また,PCrとPiの変化率はノルアドレナリン投与量に依存する傾向を示すが,ATPの減少程度には差異を認めなかった。今後,5F-BAPTA負荷心での同様の検討と心機能との関係を検討したい。
|