研究概要 |
ドイツの哲学者ガダマ-(Hans-Georg Gadamer,1900-)がいかにして、影響力を振るうことになるその解釈学思想を形成するにいたったかを明らかにするために、まずドイツで集めた一次資料を整理し、次にこれらを分析し、さらに影響関係を探ることが、研究の目的であった。夏休み中に資料の整理を終え、これらの分析に取りかかった。影響関係の解明までには及ばなかったが、分析と読解の過程で2つのことが明らかになった。 第1に、30年代・40年代のガダマ-の著述には、作品や思想に文献学上の断絶を暴こうとする歴史主義に対して、作品や思想を統一あるものとして了解しようとする傾向が見られる。この傾向はのちのガダマ-の解釈学の「作用史」や「完全性の予握」といった概念の萌芽と見なせる。第2に、古代哲学の研究者であったガダマ-は、30年代末から近代哲学研究を開始することにより、古代と近代との連続性と相違を意識することになった。彼はヘーゲルやハイデガ-のように、弁証法や実在論のような古代の思想を現代に生かそうとした。実際、彼の解釈学は古代の再生という側面を持っている。 第1点については、「詩の統一性と歴史主義」という論文をすでに書いた(未発表)。第2点については、来年度の夏に「古代と近代-『真理と方法』以前のガダマ-」という題で論文にまとめる計画である。今年度中に「伝統と了解-ガダマ-の解釈学思想の形成とエ-ベリング」と「ガダマ-講義目録I」が発表されるが、これらは以前から準備していた研究で、科研費補助金で得た文献を、その作成の途中から利用したものである。
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