1.ヴォルフ主義におけるエゴイズム概念とそのカントへの影響 (1)「エゴイズム」や「エゴイスト」という概念はドイツ語圏ではCh・ヴォルフの著作によって流布するようになったが、それはデカルト主義の影響による。また、ヴォルフからカントにかけて「エゴイズム」と「ソリプシズム」という両概念の用法が今日とは正反対である点が、概念史的に重要である。 (2)ヴォルフによる「エゴイズム」概念は原型は幾多の媒介を経て、あくまでも間接的にカントのエゴイズム論に影響を与えた。すなわち、カントの「論理的エゴイズム」は明らかにG・F・マイア-の『論理的綱要』に淵源し、また「道徳的エゴイズム」および「形而上学的エゴイズム」も、バウムガルテンの『形而上学』および『哲学的論理学』に先例をもつ。 (3)ところが、「美感的エゴイズム」だけはそうした原型をもたず、カントにオリジナルな類型である。すなわち、カントは『美と崇高』以来、英仏モラリストの思想の影響下に、「趣味」批判との連関で「美感的エゴイズム」を主題化していったものと思われる。 2.論理的エゴイズムを中心とする類型論の展開-論理学・諸論から人間学冒頭へ (1)すでに「論理的エゴイズム」をめぐる思索において、カントは連関する「宇宙論的(心理学的、形而上学的)エゴイズム」および「道徳的エゴイズム」との対比や差異化を試みている。つまり、マイア-の思想を媒介として、カントは「エゴイズム」概念の人間学化、ないしヴォルフの単なる「形而上学的エゴイズム」からのいわば(人間学的転回)を遂行したものと理解される。 (2)そうした中で、カントのエゴイズム類型論は、論理学・緒論の「先入見論」というごくローカルな場所に端を発し、最終的に人間学冒頭にその独自の位置を占めるに至った。したがって、カントのエゴイズム論は、その見かけに反して、彼の主要諸講義の結節点という際立った意義を帯びていると言える。
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