本研究は、(1)1906〜1918年の間に行われた、バルト-クによる民俗音楽調査の実態を具体的に再構成すること、および(2)1920年以降、様々なかたちで公表されたバルト-クによる民俗音楽に関する記述、描写、概念規定、分類法を明らかにし、彼の民俗音楽理解の構造を浮かび上がらせること、の二点を目指すものであった。本年度の研究で、(1)についてはこれまで収集した資料から、バルト-クが行った民俗音楽調査地に関するデータをまとめ、表として完成した。また、個々の調査状況にいいてより詳細な情報を収集し、現在執筆中の著書(後述)で詳論した。また(2)に関しては、筆者自身が訳出・刊行したバルト-クによる民俗音楽学上の主著『ハンガリー民謡』を中心に、バルト-クの著作を、社会的・歴史的文脈のなかで読み解く作業を研究をすすめ、これについても執筆中の著作の一章で論じた。また、私費でハンガリー・ル-マニアに渡航した際、上記(1)について現地の研究者にアドヴァイスを受け、特にル-マニア語文献についてこれまで欠けていた情報を得ることができたことも付け加えておく。 これらの研究全般は、『バルト-ク-博物学としての民謡研究-』としてほぼまとまり、本年中に中公新書として刊行される予定である。また、この研究によって得られた知見をさらに発展させるため、現在トランシルヴァニア地域におけるバルト-クによる民族音楽調査を跡づける大規模な追跡調査のプロジェクトが、筆者を含む複数の研究者によって計画されている。
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