本研究課題について、平成7年度科学研究費補助金を得て、次のような研究を実施した。 まず、本研究の最も重要な研究対象である京都・広隆寺十二神将立像の調査を実施した。これが本年度の最も大きな実施成果である。かねてより広隆寺において、あるいは博物館等への作品の出陳に際し、遠くからの目視のみによる作品のデータ収集を試みていたが、今回、広隆寺当局の御厚意により、11月17・18日両日の夜間に特別見学を許可され、作品の詳細な調査及び写真撮影を行うことができた。これにより、作品の形状、法量(寸法)、品質・構造・保存状態等の基礎的データや、各像の全体から彩色等の細部に至るまでの多くの写真資料を得ることができ、広隆寺像研究の基礎資料をほぼ完備することができた。現在も、調査データや写真資料の整理を継続中で、新たな知見等の成果は提示できないが、像の構造や彩色などを今後の着眼点とすべきことが明かとなっている。 その他、広隆寺像に関連する十二神将彫像作例の調査・見学を若干行った。興福寺板彫り像、東京国立博物館像、京都・薬園寺像などがそれである。さらに、神将形像の例として、静岡・願成就院毘沙門天像なども見学した。いずれも広隆寺像の図像的・様式的検討のための重要作例である。 また、広隆寺像に関する文献研究として、作者である仏師長勢の造増事績の整理検討を行い始めた。まだその緒についたばかりでとりたてて成果はないが、社会史的視点による事績の見直しの重要性を再認識している。この研究は、本研究者は、本研究社の別な研究課題である「円派仏師研究」にも展開していくもので、今後の継続課題となる。
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