研究概要 |
近交系マウスの一つであるCS系マウスは,他系統マウスとは異なる特徴的なサーカディアンリズムを行動上に示す.このことからCS系マウスは,そのサーカディアン振動体機構(体内時計)に変異を持つことが考えられる.本研究では,CS系マウスの体内時計機構を行動から分子レベまで総合科学的に調べることから哺乳類体内時計機構の理解を深めることを研究背景として,まずこのマウスの恒暗条件(DD)下での行動(回転輪走行活動)リズムの特徴をC57BL/6J系マウス(B6)と比較することにより明らかにすることを目的とした.12時間交代の明暗サイクル下での同調リズムを計測した後,DDに移行し,DD下で最長で約140日間フリーランリズムリズムを計測した.その結果,CSのDDでのフリーランリズムの周期τ(タウ)が,24時間よりも長いもの(24匹中7匹),短いもの(8匹),24時間を境に変動するもの(9匹)の3パターンに分かれた.一方,B6のτは全個体(12匹)で24時間よりも短かった.CSのDDでのフリーランリズムの最大の特徴として,ほとんどの個体で活動相が2つのコンポーネントに明確に分かれるリズムスプリッティング(リズム分割)が見られた.CSのスプリッティングでは,τが短くなると(平均で23.76時間)第2のコンポーネントが消失し,第2コンポーネントの出現はτに依存することが分かった.以上のことから,CS系マウスの体内時計機構は異なる周期を持つ2つの振動体により構成されていること,そしてCS系の場合,2振動体間の結合力が弱くそのために振動体相互の影響力のバランスが変化しやすいことが考えられた.現在このCS系の2振動体構造をさらに確かめるために,DDでの光パルスによるリズム位相反応および視交差上核のc-fos遺伝子発現について検討中である.
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