研究概要 |
視覚系に最初に入力される視覚情報の形態は,網膜に投影された2次元的な明るさの配列である。この配列に含まれる明暗の変動が我々にパターンについての情報をもたらすが,その中には,広い範囲にわたる大まかな変動も,局所的で細かな変動も含まれる。本研究においては,画像に含まれる種々の空間周波数成分を視覚情報のキャリアとして位置づけ,人が外界の対象像を認識する際に,どのような情報が用いられているかについての検討を行うことを目的とした。実験では,画像認識時の空間周波数特性を,初期視覚系の特性(コントラスト感度)から分離して測定するために,以下の手続きによった。まず,刺激画像に対して2次元の帯域通過型フーリエフィルタを適用し,特定の周波数成分を抽出したターゲット刺激を作成した。さらにこの画像のもつ位相成分のみを無作為化することによって,形状の情報をもたないマスク刺激を作成した。実験では,コンピュータ画面上に,種々のコントラスト比でターゲット刺激とマスク刺激の光学的重ね合わせをシミュレートして呈示し,認識の成立に最低限必要なコントラスト比を求めた。本年度の研究では,その大きさや基本構造が類似しており空間分析が行いやすいことから,人の顔を刺激として用い,その認識時の空間的特性を評価したが,その結果,顔の認識には顔の幅あたり20サイクル程度の中域周波数成分が重要であることが確認された。さらに,従来,画像の明暗反転や上下反転によって,顔の認識パフォーマンスは大きく低下することが知られており,両者は共に,人が顔を認識する際に部分の情報よりむしろ全体的な情報が重要であるためと論じられてきたが,本研究の結果から,前者は人が顔の画像から情報を抽出する際の周波数特性を反映するものであるが,後者は異なる原因(おそらくは画像から人物情報を読み取る際の方略が使えなくなるため)によるものであることが示唆された。
|