研究概要 |
本研究は,運動知覚におけるメカニズムを,多層の座標軸構造に基づいて考察するため,頭の運動と連動して運動する刺激を呈示する装置を作製し,頭運動時と頭静止時の誘導運動について検討したものである. 被験者の頭の左右方向の運動をスライド式ポテンショメータによって検出し,その信号をDAコンバータからの信号と乗算回路に入力することによって,運動比(刺激運動量/頭運動量)を決定した.刺激は,光点とそれを取り囲む直径4cmの円(枠)であった.光点運動-枠静止条件と光点静止-枠運動条件の2つがあり,それぞれの条件下で,刺頭-刺激同方向条件と頭-刺激逆方向条件および頭静止条件の3つがあった.頭静止条件ではファンクションジェネレータからの0.4Hzのサイン波を用いた.観察距離は60cmで運動比は0.16(頭運動量10cm,刺激運動量1.6cm)であった.被験者(4名)の課題は、光点を凝視したまま,枠および光点の知覚された運動距離を再生することであった. その結果,光点の運動量は,頭運動条件の方が頭静止条件よりも有意に大きかった(F(2, 6)=15.52, p<.01)が,運動条件による差および交互作用はなかった.枠の運動量は,枠運動条件のほうが光点運動条件よりも有意に大きかった(F(1, 3)=85.38, p<.01)が,頭運動条件および交互作用には差がなかった.これらの結果は,頭運動は被誘導刺激の運動量に影響を与えるが,誘導刺激には影響を与えないことを示している.知覚された枠の運動量と光点の運動量との間に生の相関(r=0.59, p<.01)が見られた.先行研究では,知覚された誘導刺激と被誘導刺激の運動量との間にはトレードオフの関係が指摘されている.これには運動比および運動速度が関係していると思われる.今後これらの変数を操作し,運動視における情報の手がかりの統合過程をさらに検討していく.
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