研究概要 |
〈目的〉 本研究では,高齢者のより良い適応の条件を評価するため,対人場面における行動の個人差を説明する尺度を適用した.1つは自己意識尺度で,もう1つはセルフモニタリング尺度である.両尺度はこれまで青年を中心に使用されてきたので,妥当性・信頼性などが高齢者では確認されていない.そこで高齢者においても両尺度が十分に有用であることを示すことを第一の目的とする. 〈方法〉 自己意識尺度,セルフモニタリング尺度を,福祉会館利用者および高齢者教室の参加者,計274名(男120名,女146名,性別不明 8名)に施行した.平均年齢は71.3歳(年齢幅 60歳〜88歳)であった.福祉会館の利用者には個別面接法を用い,高齢者教室の参加者には自記式で調査をおこなった.なおこの両尺度は他のテストバッテリ-の一部に組み込まれていた. 〈結果・考察〉 共分散構造分析を行った結果,自己意識尺度もセルフモニタリング尺度も尺度の構造は従来得られていた青年(大学生)の結果とまったく変わらなかった.信頼性の指標であるα係数も比較的高く,尺度としての使用可能性は高齢者においても十分に認められた. その強さでは,両尺度において,高齢者は大学生よりも有意に低い値を示した.つまり青年に比べ,高齢者は他者から見られる自分,あるいは自分の内面に対する関心が少なく,また対人場面で自分の行動を観察,調整,管理する傾向も少ないという結果を示した.高齢者はあえて自分に対する注意を少なくすることによって,強い情動の認知を妨げ,適応的情動状態を保つのかもしれない.同時に,社会的役割の固定化が,その場その場に応じた自分の役割を観察,調整,管理する必要を少なくするのかもしれない. 現在さらに他の変数との関係などを検討している途上であり,研究は継続中である.
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