研究概要 |
本研究は,小学校中・高学年の子ども達の読み能力について,1.異なる表記の処理過程の発達的な変化の検討と,2.作動記憶内での意味的な表象の生成過程の実験的な検討が目的であった。以下でそれぞれについて概要を説明する。 1.ここでは学童期の子ども達を対象とし,2種類の異なる表記システム,すなわちかなと漢字の処理過程の発達的な変化を検討することが目的であった。実験1では小学校2年生と6年生,および成人を対象としてストゥループ課題を実施した。その際,妨害刺激としてかな表記と漢字表記という2種類の色彩語が用いられた。その結果,2年生ではかなの方が干渉は大きかったが,6年生と成人ではかなと漢字の干渉の程度は変わらなかった。実験2では中間の年齢である4年生を対象とし,彼らを漢字の知識量によって2群に分けた。上位群のストゥループ干渉のパターンは6年生に類似したものである一方で、下位群は2年生と類似していた。従ってこの時期に2種類の表記語の意味処理の仕方が成人のそれに近づいてくることとが示された。 2.読解の過程は,文字・単語の処理,文の処理,談話の処理の3つのレベルからなっていると仮定された。117人の小学校5年生に文章中の文節の読みのスピードの測定を行った。文節の読みのスピードは文節の長さ,文中の位置,文章中の位置と関連があった。これらはそれぞれが文字/単語レベル,文レベル,談話レベルに対応していた。また、一般的な読み能力は作動記憶の指標であるリーディングスパンと語彙能力によって説明され、領域特殊的な読解能力はその領域の知識と一般的な読解力によって説明された。考察では,本研究の結果の読解に困難を抱えた子ども達の援助への適用可能性が議論された。
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