研究概要 |
1.死の脅威を緩和する対処方法として,(1)抑圧,(2)正当化,(3)合理化,(4)意味の探索,(5)死後の生,(6)無問題化,を設定し,死の脅威を喚起させるビデオを鑑賞をさせた後,被験者が,どの対処を好むかを調べたところ,(4)「自分の人生の意味を見つけようとする傾向」がきわめて強いことが明らかになり,ついで,(1)「抑圧する傾向」が強く,残りは好まれなかった.自尊心に関する従来の研究からは,自尊心を高揚させることによって,死を抑圧し,脅威を緩和する方法が,適応と考えられる.つまり,自尊心の高い者は,死を超越しているのではなく,抑圧しているから,死を脅威に思わないのである.そこで,自尊心の高い者と低い者に,死の脅威を喚起させた後,それぞれを,上記(4)と密接に関係する自己直視性の人格特性をラベリングする群としない群に二分して,喚起される脅威を比較する実験を行った.その結果,自尊心の低い者は,「あなたは自分を見つめられる人だ」というラベルを与えられると,死の脅威が緩和し,逆に,自尊心の高い者は,脅威が増大した.これは,自尊心を高揚できない自尊心の低い者にとっては,「自己直視できる人間」というラベルが自尊心を高揚させ,普段,自尊心の高い者が行っている抑圧ができるようになることを示し,すでに自尊心が高揚している自尊心の高い者は,自己直視のラベルによって,死を抑圧している自分を見つめるようになり,抑圧を解除し,脅威を認めるようになったと考えられる。この結果は,現代社会が,自尊心の高揚にきわめて価値を置いていることを示すものであり,自尊心の低い者は,さまざまなポジテイブなラベルを自尊心を高揚させるための代償として利用してしまう危険性を示唆するものである.そこで,2.自己の価値にとって重要と判断する領域は共通しているが,その領域で優越することによって自尊心を高揚できた者と,優越することができない者をサンプリングし,自我脅威を与えた後,Baumeister&Jones(1978)の「補償的自己高揚」の戦略(代償の一種)を使うのは,どちらの群であるかを実験的に検討したところ,自尊心の低い者が顕著に使用することが明らかとなり,1で示された,自尊心の低い者の代償スタイルが確認された.
|