研究概要 |
討議集団に生じた意見の不一致が、態度変容に及ぼす影響について検討した。集団討議が態度変容に及ぼす効果としては、討議前よりも態度が極端になる集団成極化現象が知られている。有馬(1990b,1994)は、討議の結果意見が一致しなかった集団において、通常予測される方向とは逆の方向に態度が変容する反成極化現象を見いだした。本研究では、この反成極化現象がなぜ起こるのかについて、自己カテゴリー化理論を援用した仮説をたてた。自己カテゴリー化理論によれば、成極化現象は、集団の典型性に自己を同一視させようとする動機から起こるものである。しかし、反成極化現象に示されるような革新現象は、むしろ、集団のカテゴリーから脱しようとする動機から起こるのではないかと考え、次の実験を行った。 大学生187名、短期大学生158名を対象として、国政選挙を模した実験を行った。討議前に、政策に関する意見項目に個人で回答する。その後、「一般的な大学生は政治的に保守的(革新的)であると言われている」というカテゴリー化の教示を行った。討議集団は「保守新党」か、「リベラル新党」のいずれかの政党を選び、政策をまとめる。討議が一つにまとまらなかった場合には二つの党に分かれる。討議後の個人回答と討議前の個人回答の差を態度変容量とした。実験の結果、分裂集団に反成極化現象が見いだされるのは、討議前に自己の態度と同じカテゴリー化が行われた条件であることが示された。以上の結果より、反成極化現象は、自他の差異が明確でない状況で、自己アイデンティティを明確にしようとする過程であることが示唆された。
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