研究概要 |
本研究は、認知診断モデル(cognitive diagnostic model)の1つとして近年注目されるルールスペースモデルについて、その現状を分析し、問題点などを明らかにした上で、新しい学習診断テストを作成する際の注意点およびモデルの改良方法を提案することを目的として行われた。 ルールスペースモデルでは、項目反応理論による能力θと項目得点パタンの特異性ζからなる2次元の分類空間(Rule space)を形成する。そして、属性(attribute)と呼ばれる、テスト項目を解くのに必要な認知的技能(cognitive skills)からBoolean関数により作成される理想的反応パタン(θ_R,ζ_R)と、実際のテストに対する反応パタン(θ_x,ζ_x)を空間上にmappingし、被験者を分類して学習過程において被験者が犯した誤りの種類を診断しようとする。しかし、モデルにとって最も基本である属性に関して、研究者間で一致した既念的基礎ががないことが本研究により明らかになった。新しい方法を開発するためには、どのような認知過程を属性と見なすべきか、属性と宣言的知識(declarative knowledge)とはどういう関係にあるのか、などの問題点を念頭におくべきであろう。そうすることにより、モデルによる分析の結果がより解釈しやすく有意味となり、テストに対して属性を首尾一貫して特定できない状況も改善されるだろう。 一方、本研究で一般項目反応理論を用いて、ζを個人パラメータαと比較分析してみた結果、両者に高い相関があることがわかった。しかし、反応パタンの特異性が見られるζが大きいときには、被験者の能力推定の適切さが疑われ、そのデータの利用に際して、さまざまな配慮が必要となることも本研究により示唆された。今後も学習診断テストの作成を続ける予定である。
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