研究計画において立てた三つの柱に即して研究実績の概要を述べる。 第一に、ドイツの三分岐型中等学校制度に対する実践的・理論的な批判については、主にアカデミックな議論、統計的な就学動態に即して現時点での問題点をほぼ一覧することができた。就学動態においてはギムナジウムへの集中の度が一層強まりつつあること、再編された旧東ドイツ地域の制度においては二分岐型に近い、より高い資格へのシフトが生じていることを明らかにした。議論状況においては、親や生徒の意識および労働市場構造の変化を前提とした分岐型中等学校制度の破綻を語る議論がすでに一般化していることを確認できた。 第二に、近年の新しい中等学校制度建設の理念については、当初予定していた議会資料の利用は十分進めることができなかったが、文献資料の収集と分析により、従来日本ではほとんど注目されていなかったドイツの教育制度論議の二つのトピックとして、「理念による分化」の提唱と「地域化」の実践的展開を明らかにできた。方法的アプローチには変更があったものの、内容的には当初計画の意図に沿った知見を得ることができた。 第三に、経済界や産業界の中等教育に対する明示的な要求については、日本での研究ではまだ注目されることの少ない「鍵的資質」という概念をめぐる70年代以降のドイツでの議論の展開と、近年の学校教育への影響について若干の考察を進めることができた。ドイツでも産業構造の変化と労働力要求の変化は教育制度に相当の影響を与えており、それはドイツの伝統的なデュアルシステム職業訓練制度を無用化し、むしろ一般教育的な分野の強化を求めるものとなっていることなどを明らかにすることができた。 全体として、現代ドイツの中等教育の社会的基盤について相当程度の学問的知見を蓄えることができたと考える。今後、さらに一部の州で取り組まれている政策的な中等学校制度再編の動向の検討にも取り組み、先進工業国での中等学校制度論の比較研究を深めたい。
|