本研究の目的は、障害幼児における音声言語の文節的受信の成立過程を、歌遊び場面の観察・分析から検討し明らかにすることである。今年度は他者の歌やレコードの歌に対応させながら動作発信することができない事例に着目し、その原因と援助の方法を検討した。対象児は障害幼児通園施設の約30名で障害種別は問わなかった。観察と分析には「初期音声言語行動評価法」(菅井.1994)を用いた。これは『げんこつ山』を対象児と観察者とが対面し7つの条件下で行い、その場面をビデオ録画し評価・分析するものである。 3歳10カ月の自閉症の男児は、自ら歌う歌と自らの動作を対応させることは可能であった。しかし外界から一方的に流れてくる音声から必要な情報を得て処理する(意味の単位で文節化し動作と対応させる)ことができなかった。そこで筆者が動作の変わり目に語頭の1音節を発すると、対応した動作が発信できた。日常においても本児には意味の単位で明確に文節化した音声のかけ方が必要であったと考えられる。6歳5カ月のダウン症の男児では歌うことが外界からの音声受信を困難にしていた。本児自信の音声が外界の音声をマスキングしたか、歌うことによって全身を緊張し外界の音声になめらかに、スムースに対応させていくことを困難になっていたためであると考えられた。本児には歌うのをやめるよう促してみたり、粗大運動での活動において柔らかな動きが出るように留意したところ、歌遊びにおいても身体緊張が軽減され、歌と動作が対応するようになった。 この2事例は音声言語発信については比較的良好な子ども達であった。しかし動作表現に着目するとそれぞれにゆらぎが見られた。音声情報処理の困難さに対して我々はつい音声言語のみ目を向けてしまうが、本研究のように対象児の音声情報処理を動作表現と関連させながら丁寧に観察し、必要な援助を考えていくことが重要であると考えられた。
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