研究課題/領域番号 |
07710258
|
研究種目 |
奨励研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
西洋史
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
森本 真美 大阪大学, 文学部, 助手 (80263177)
|
研究期間 (年度) |
1995
|
研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
|
配分額 *注記 |
1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
1995年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
|
キーワード | 少年文学 / 教育改革 / 出版 / 道徳改良運動 |
研究概要 |
近年、申請者は19世紀イギリスにおける少年文学の歴史的検討を試みている。本年度は少年文学成立への一要因とされる世紀後半の初等教育改革にまず注目し、調査委員会報告を中心とした議会文書や個人の新聞・雑誌投稿、民間団体の意見小冊子類を史料として入手し、分析をすすめてきた。以下がその成果の概要である。 1870年のいわゆるフォスター教育法は、イギリス初等教育史における画期的なタ-ニングポイントとして位置付けられているが、無償化や義務化といった実質的な改革は後続立法において実現したものであり、教育制度史のなかではこの法令それ自体の実効性は疑問視されている。しかし少年文学の出版産業としての側面を考慮すると、「識字力を持つ少年」という存在に注目を集め、彼らを購買層とした市場の形成・発展を促したその影響力は決して無視できないものであったと思われる。 また、この改革で恩恵を得るとみなされたのが、経済的な事情から年長になるまでの通学が難しかった、労働者階級の子どもたちであったこともきわめて重要な点である。改革後も彼らは学齢期の後半を学校と職場の双方で過ごし、家計とは部分的に独立した現金収入を得、自身の購買力と商品の選択権を持っていた。余暇の娯楽を金で買う消費社会の成立期にあり、時代の倫理と道徳を体現していた中流階級にとって、この「消費の方法」をはじめとする労働者階級の生活慣習は教化の対象であり、かつ人格形成期にあたる少年期はもっとも教化の効果を上げやすい年代であるとされていた。史料分析の結果でも、聖職者や、さまざまなセクトの宗教団体が雑誌の発行にも積極的に関わっていることが判明している。少年文学産業はその萌芽期において、労働者階級を対象とする教化・道徳改良運動の一環としての意義を強くアピールすることで、より多くの支持者を取り込み、ビジネスとしての急速な成長をみていったと思われる。
|