まず、十九世紀のウィーン市民を概略的に捉え、この社会グループがどのようにして誕生し、どのようにして独自の価値観や文化的コード、生活様式を築きあげていったのか、また、かれらの「日常」とはどのようなものであったのか、などの基本的な問題を明らかにするという本研究の最初の目的は、著書『ウィーン-ブルジョアの時代から世紀末へ』のなかでほぼ達成された。 また、本年度、個別テーマとして取り上げることを計画していたウィーン市民の読書文化については、67名の市民蔵書家についての伝記的アプローチをほぼ終えることができた。さらに、これらの人々の蔵書に関して、その規模や構成を概観し、当時の市民の「平均的蔵書像」を割り出すことも試みた。これらのデータを啓蒙主義時代の知識人の蔵書と比較することにより、とりわけ、十八世紀から十九世紀にかけての教養概念の明らかな変化(例えば百科全書的な知的普遍主義の衰退)が裏付けられた。 読書文化については、1995年11月3日、京都大学の主催する「西洋史読書会」第63回大会(於:京大会館)にて、『ドイツおよびオーストリアにおける近代市民階層と読書文化』という題目で研究発表を行ったほか、今年度中に論文の形で発表することを希望している。また、このテーマは、ウィーン大学社会経済史研究所のハンネス・シュテクル教授の指導のもとで、今後二年以内に博士論文として発表される予定である。
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