研究概要 |
「連濁・助詞の融合などの形態音韻論的諸現象についての研究」という課題を掲げて,特に一八世紀初頭薩隅方言を反映するロシア資料を対象として形態音韻論的分析に取り組んだ。 先ず,この資料が日本人が書いたのか,ロシア人が書いたのかで説が分かれていたが,ロシア人が,聞いた日本語をロシア文字によって表記した事を明らかにした(文献探究34)。このロシア資料を日本で具体的に紹介したのが,東京外国語大学の八杉貞利である事が付随的に判明した(文献探究34)。 次に鹿児島県立図書館所蔵のロシア資料の調査によってロシア資料に草稿本・清書本があり,その推敲過程への日本人の具体的関与の仕方(敬語表現への改訂,語順の入れ替え)・表記法(HH/H,B/W,o/ωの区別)・正書法(i/и/йの区別)を明らかにし,表記に携わったロシア人が極めて高度な表記法を有していた事,日本語に対して分析的な態度であった事を明らかにし,所謂「外国資料」としての扱いをキリシタン資料や朝鮮資料と比較して論じた(岡山大学文学部紀要24)。 更にロシア資料が従来のようにコメニウスの著作(opera didactica所収)の直訳ではなく,例文の増補・例文の分割などの改訂が行われている事が分かり,両者の異同についても調査を行った。 上述のようにロシア資料研究の文献学的基礎を固め,この上で一八世紀薩隅方言の促音は逆行同化しているが,撥音は常に舌端的音価を有している事を明らかにし(文献探究34),これによって何故「丸かもん+は」→「丸かもんな」のような助詞の連声が生ずるかを説明した(文献探究34)。又,sar'(猿)+wa(は)→saraのような助詞の融合が生ずる理由,ki(木)+wa(は)→kiwaのような助詞の融合が生じない理由,母音終止語彙には助詞ノが撥音化するが子音終止語彙には撥音化しない理由を音韻配列規則によって説明する発表('95筑紫国語学談話会)を行った。
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