本研究は、東京への移住者がさらされる言語接触と言語変容の過程を明らかにすることを目的とした。 1 在京3年以下の地方出身の女子学生4名を対象に、(1)同一地域出身 (2)東京出身の、いずれも同性同学年の初対面の相手と30分間ずつの会話をしてもらい、録音した。内容を文字化し、検討を加えた結果、(1)東京出身者相手の会話では、少なくとも語彙・文法の点では方言的特徴は現れない。(2)同一地域出身者相手の会話では、初めは共通語であるが、談話中のある話題の転換点をきっかけに、方言的特徴が現れるようになる。その出現状況は話題の内容によって変動する。(3)特に音声的特徴については個人差が大きい。という点が明らかになった。また、録音後のフォローアップ・インタビューでは、方言使用の際の意識の個人差が見られた。 2 平成7年4月に東京に移住した地方出身の学生から、言語摩擦に関する体験について自由記入による回答を得た。言語摩擦のパターンとそれへの対処にはいくつかの類型が見られた。 3 都内の高校生80人を対象にした方言受容意識調査を行った。自分の生活の範囲内で方言に接した場合、プラス・マイナス・中立の評価が場面によって偏りをみせることがわかった。これは生活経験の中で方言に接する機会が乏しいために、方言イメージが狭く固定化され、ステレオタイプとして現れているものと解釈された。 4 弘前と大阪において、若年層の方言意識に関するグループインタビューを行った。 今年度は追跡調査を充分に行うことができなかったので、来年度引き続き調査を行いたい。また、これらの結果を有機的に関連づけ、結論を導くのを今後の課題である。
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