今年度は、中世の散文(説話・随筆)に研究対象を求め、資料収集と、コンピュータ等を用いた資料分析のための基礎的な考察、さらには、中世散文総体の文学史的位置づけについて考えるための諸種の理論的考察の準備を試みた。 1、資料収集について。東京の各文庫を中心に(宮内庁書陵部、東京大学、国立公文書宮内閣文庫、国立国文学研究資料館、名古屋大学、名古屋市立鶴舞図書館、東北大学狩野文庫ほか)、説話集を中心とする中世散文、および、それらに影響をあたえた和漢籍などについて、資料調査、及び紙焼き写真資料等の入手に努めた。 2、コンピュータを用いた資料分析について。資料調査において、常に、研究費により購入したノート型コンピュータを携帯し、調査結果を入力した。また、通信機能を用いて、外部のデータベース(国文学研究資料館オンラインデータベース他)に接続し、日本文学についての諸種のデータ、就中、文献所在・文献目録等についてダウンロードして、今後のデータベース構築の一助とした。 3、作品論的な、文学史上の位置づけについて。これまでの私の研究の蓄積の集成を中心に、今年度の科学研究費補助金による調査分析の一端をも踏まえ、『岩波講座 日本文学史 第5巻 一三・一四世紀の文学』において、「説話文学と説話の時代」を執筆した。そこでは、中世散文総体を論じる一つの方向として、説話を一つの窓として、中世文学史の一隅をかいま見、また、その説話が生まれでる、契機と場の問題を考えた。今後は、その方向を突き詰め、中世散文、ひいては中世文学史総体の読み換えを試みたい。
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