本研究は、源氏物語享受史の研究、鎌倉時代物語研究の発展に貢献するべく鎌倉時代物語における源氏物語の影響箇所を網羅することを企画したものであったが、研究期間中に、予定の目標であった基礎的データの整理をほぼ終えることが出来た。その成果は『調査研究報告』17号に「王朝末期物語における源氏物語の影響箇所一覧」として発表予定である。但し、時間的・労力的な制限から当初予定していた『とりかへばや物語』『松浦宮物語』については調査結果をまとめるに至らなかった。 源氏物語享受史の側面からは、いかなる本文を持つ源氏物語が引用されているかについて、影響関係の認定にいくぶん問題がある用例をも含めてであるが、のべ43例の有用な用例を抽出することが出来、多くの王朝末期物語が引いている源氏物語は、青表紙本でも河内本でもないということがわかった。その検討結果は『国文学研究資料館紀要』22号に発表の予定である。どのような語句が引用されるかについては、他の文学ジャンルや連歌寄合などとの比較が必要であるが、特定の語句が別々の物語で複数回引用されることがあり、それぞれの物語作者が独立して源氏を享受していたのではなく、間接的享受があったことを予想させるものがある。今後の検討課題としたい。 本研究で集めたデータを鎌倉時代物語研究にいかに活かすかについては、今の所明確な見通しは立たないものの、物語成立の時代によって源氏の引き方が変わってゆくことをほぼ見渡すことが出来た。 即ち、粗筋を中心とした影響関係から、語句を中心とした影響関係へ、次第に移り変わって行くのである。本データが各物語の文学的読解にいかに関わっていくかについては今後の課題としたい。
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