1.認知言語学、ならびに言語類型論の最新の成果を摂取するべくつとめた。とりわけ、接続構造の諸相をめぐって次の二点における研究を深めた。第一、機能文法の枠組みにおける接続構造の類型の見直しと体系化を試みた。第二、日本語の多機能的な接続構造の歴史的研究について、場所名詞「トコロ」の文法化を中心に分析を行った。また部分的にではあるが、大学院の教育にも成果を還元することができた。 2.研究成果発表の一環として接続構造の類型と意味解釈をめぐる問題を論文にし(裏面参照)、認知科学会の学会誌に提出、現在審査中である。そこでは、語彙的知識と文法規則の総和として言語的知識をとらえようとする従来の見方を批判し、語彙・文法的なテンプレートに意味解釈のための手続きが付加されたものとしての構文的知識の重要性を指摘した。今後はより広いデータの収集と記述、ならびに適切な形式化が必要であるが、基礎研究としての方向づけはある程度までできたと思われる。 3.既に収集ずみであった日本語口語データのテープ起こし、ならびにコンピュータ入力を行った。この作業はまだ完成しておらず、より精密な補助表示(=タグ)の入力や検索システムなどについては、今後の継続課題としたい。 4.類型論的データ分析のために、記述文法の収集を開始した。日本語の類型的特性については再検討を加えつつあるが、当初の計画の一部であった論理的接続語と自然言語の対応関係や後者に特有の非対称性の分析については今後の課題である。
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