ミニマリストプログラムのもとで派生(derivation)の経済性(Economy)と格(Case)の理論を構築するのが本研究の目的であるが、特に、付加詞(adjunct)が格を有するという新しい仮説の理論的帰結を様々な現象を調べることによって考察した。その結果、ミニマリスト理論全体がより抽象化、高度化するなかで格理論を再定式化する際、この仮説が有効な領域が再定義されるとになった。具体的には以下のようにまとめられる。 1.WH-島(WH-island)からの抜き出し(extraction)が不可能であるという付加詞の特徴は、付加詞が格を有するという仮説にかかわらず、付加詞のより根本的な特性と派生に関する一般的な経済性の原理から導き出すことが可能である。さらに、この線に沿えば非指示句(non-referential phrase)との類似性もより自然に捉えられる。 2.Germanic言語(Scandinavian言語やWest Germanic言語)に見られるDiesing効果に関するデータは、DPがObject ShiftやScramblingによって付加詞(この場合、Negなどの特定の分布をみせる副詞)を飛び越える際の適用可能性に関する特徴を表すものと再分析できる。そうすると、付加詞が格を有するという仮説にたてば、Diesing効果をRelativised Minimalityの下位現象としてより自然に説明する道が開かれる。 3.その他、交差性(crossing)、適正束縛(proper binding)、追加WH効果(additional WH effect)等の現象に関する付加詞の特異性は、付加詞が格を有するという仮説と一般的な経済性原則との相互作用から導き出される得る。 今後は、上述の2、3の現象をさらに詳しく、多様な言語に関して調べ、より高度な格理論の構築を目指したい。
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