1 今年度の研究においては、当初国民国家を憲法によって基礎づけることの可能性について考察を始めた。しかし研究を進めるにつれ、近代憲法が前提とする解放された個人をまず議論の出発点にしなければならないという理解に至った。近代憲法とは、個人が国家という形で結集することを選んだことの印に他ならないからである。 2 個人が国家をどのように運営するかは、従来民主主義の問題として考えられてきた。しかし、憲法学において民主主義が語られるときには「国民の意思」を国政に反映することが求められてきたのであり、そもそも個人の意思からいかにして「国民の意思」が形成されるのかは十分な考察の対象とされてこなかったように思われしかし、そのような理解の仕方は、あくまでも個人から出発して国家を形成しようとする本研究にとっては不十分なものであった。 そこで私は、民主主義の正当性の根拠を国民の間の討議(del iberation)におく最近のアメリカ・ドイツの議論を参考にしつつ、個人主義と国家意思の形成理論とを結び付ける試みを行った。また、そのような国民の討議が実際に国政に反映されるためにはどのような制度が必要とされるのか-これは国家の憲法的制度化の問題に他ならない-についても、検討を加えた。 4 これらの点について、自分にとっても、また従来の憲法学に対しても新たに知見を加えることができたと考えている。研究成果については英語でまとめ、自分が参考にした海外の研究者に対しても私見を示し、批評を加えてもらって今後の研究への刺激としたいと考えている。
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