研究課題/領域番号 |
07720014
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研究種目 |
奨励研究(A)
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配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
公法学
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研究機関 | 関西大学 |
研究代表者 |
川端 康之 関西大学, 商学部, 助教授 (70224839)
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研究期間 (年度) |
1995
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研究課題ステータス |
完了 (1995年度)
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配分額 *注記 |
1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
1995年度: 1,100千円 (直接経費: 1,100千円)
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キーワード | 国際租税法 / 国際課税 / 租税仲裁 / ADR / 相互協議 / OECDモデル租税条約 / 事前確認制度 / APA |
研究概要 |
1 我が国が締結している租税条約には、権限ある当局間の協議(相互協議)に関する規定が含まれているのが一般であり、OECDモデル条約をはじめその他のモデル条約においてもまたそのような規定が含まれている。しかし、これらの規定では権限ある当局間で協議が行われても合意に達することが条約上義務づけられておらず、現実の協議事実でも納税者が協議による合意を望んでいても当局間での合意が得られなかった考案がかなり存するのではないかということが、本研究での実務家へのヒアリングによって明らかとなった。しかし、そもそも相互協議手続の法的性質が納税者救済というよりも一種の外交交渉であるという側面も含まれており、さらに合意への到達は関係国の税収減に結びつき易いために、個別事案での協議内容が当該事実にかかる納税者(及びその代理人)自身にさえ知らされておらず、相互協議手続がブラック・ボックス化しており、納税者救済という視点からは問題が存することも明らかとなった。 2 相互協議は事後的紛争解決手続の色彩が濃いが、移転価格紛争についてはいわゆる「事前確認制度」が行政実務レベルでは奨励されている。しかし、事前確認のために納税者は原価情報等の企業の中枢にかかわる資料の提出を早期に求められるために、行政実務レベル程には事前確認制度を利用しようとは納税者は考えておらず、その理由が情報開示、確認の法的拘束力に存することが明らかとなってきた。 3 そこで、本研究でターゲットとした上2種類以外の紛争解決手続として、第三者による租税仲裁手続の導入の可能性を検討した。欧州連合では、移転価格紛争を念頭に仲裁協定を発効させているが、その法的性質(指令ではなく協定)や5年間の限時法であることなどから、いまだ仲裁実例は現れておらず、研究代表者の行った文献調査によれば、欧州の専門家は、域内法人税の調和という脈絡において、企業会計と法人税課税標準の関係の相違などを前提に、仲裁協定の実効性に疑問を呈している論者が少なくないことが分かってきた。また、我が国の租税条約への導入可能性については、モデルとなる仲裁手続が固まっていないこと、仲裁事例がほとんど存しないこと等を理由に、行政実務家は消極的に考えていることもヒアリングを通して明らかになった。OECDは移転価格紛争解決手続の一として租税仲裁制度を研究する必要性を従来以上に、95年の「移転価格ガイドライン」において指摘するに至った。今後は、我が国が先進国の中で、対外租税政策の一環として紛争解決のマルチ・トラック化による交渉材料の確保を行うことが、先鋭化する税源争奪を抑止するために必要であり、そのためには、制度モデルの定式化が必要であるとの結論に達した。 4 なお、本研究の成果は、96年9月にミュンヘン大学(K・フォーゲル法学部教授)で開催される「日独国際課税シンポジウム」で事前確認制度の問題点と仲裁手続という視点から研究報告を行い、シンポジウム記録を刊行する予定である。
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