国際人権条約の「内容」面の充実を支えるのは国内・国際裁判所であるという問題意識から、まず(1)国際人権条約における個人申立制度(具体的にはヨーロッパ人権条約(以下、ECHRと記す)における個人の申立制度)が人権保障実現の上で果たす憲法上・国際法上の意義を検討した。さらに(2)これを前提として、国内法の人権条約適合性を実現するために国内法上どのような制度が存在するかを検討した。 (1)の点では、ヨーロッパレベル(ECHRだけでなくEU/ECや欧州安全保障協力機構)で展開される人権保障の進展という状況下にあって、個人の申立制度は着実な発展を遂げている。(1)の個人申立制度の実効性が、(2)の条約適合性の促進を国内法制度に対して要請・実現させているという関係にあると言えよう。(2)については、第一に事前の条約適合性審査手段として国内法制定時および国内法制定後、条約適合性をはかる方法、第二に、事後の是正手段として、ECHR機構で条約違反を認定された場合に、条約違反の国内法制度を是正する方法(とりわけ再審制度導入の可能性)について検討した(コモン・ウェルス諸国の立法の事前審査制度を参考にイギリスの場合についてその可能性を模索した)。 以上より、第一に、個人の申立制度の存在は国際人権保障の実効性確保において重要な役割を果たすこと、第二に、それを国内法的に支えるためには条約適合性を確保する国内的制度(新しい制度および現行制度の活用)の必要性が明らかになった。(後述、11.研究発表参照)。この点は日本における国際人権保障の発展のための条件としても同様に言える点である(自由権規約第一選択議定書の批准の重要性と国内法制度(裁判所・国会・行政)側の準備の必要性)。
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