平成7年度科学研究費によるの主要な実績は次のとおりである。「EU市民の地方参政権と『市民権』概念をめぐる一考察」(『法学研究』)においては、1996年から構成国の地方議会選挙にEU市民を参加させるためのEU地方選挙指令をその対象とした。EU地方参政権導入の経緯、当該指令の逐条ごとの検証に基づく選挙実施手続き、選挙管理システムの分析を行なった。また各構成国が、地方選挙を国籍保持者以外に開放するために、いかなる法的措置が必要となるかについて、憲法改正が必要な国、法令の改正で実施できる国、すでに憲法改正を行なった国、すでに地方選挙権を外国人に認めている国に分類して考察した。さらに、EU地方参政権の導入が、従来の「市民権」概念に対してどのようなインパクトを与えたか、EUと国家に対する「二重の市民権」理論についても紹介した。 「新たな加盟国を迎えたEU-北欧的発想と欧州統合-」(『国会月報』)においては、1995年にEUが新加盟国3国を迎えるにあたっていかなる問題が存在したか交渉の経緯を概観するとともに、中立政策、社会福祉、環境などでこれまでEUと異なる政策を展開していた北欧諸国のEU加盟のもつ意味について考察した。「国際機構のネットワーク」(『国会月報』)においては、重層化する欧州の国際機構の協力関係について考察した。 「EU統合と言語政策」(『政策科学』)においては、補完性原理のもとで構成国に残された権限分野となっている言語文化政策に関して、フランスやルクセンブルグ、アイルランド等の国々では言語ナショナリズムともいえる政策が展開されている状況を紹介した。なおEUと構成国の多言語主義政策については、平成7年11月に日本EC学会において研究報告を行なっている。
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