(1)イギリスの水利権の法律的構成、その多様な性格 沿岸権(河岸所有者権)は河川の堤防の土地を所有することから発生し、またそれに付随する財産権である。他方この権利は、沿岸権者間に存する正義と衡平の原理を伴う自然の権利として、固有の性質を有する。それは、不法行為の訴訟に基づき、特定の損害を立証せずして保護されうる。さらに現代において、沿岸権は、水質を保持する効力の側面を除き、水資源の保護と涵養を目的とした立法による制限を受けている。しかし、従前の慣行的諸準則は制定法の諸条件と緊密な関係性を保ち、かつそれらに反映されていることが見い出される。 (2)水の行政組織の体制の変遷とそこに見る法政策 水の行政期間は、水系主義に基づき段階的に統合整備されてきた。それをリ-ドしてきた水政策は集中的河川流域管理であり、統合された行政機関は、水文学的循環に対応して多方面にわたる水事業の運営管理をし、水環境保護の役割も兼務してきた。その後水事業の民営化を契機として、行政機構が再構成され、取水、排水許可等の規制業務を留保した単一の全国組織、NRAが誕生した。現在の法律体制は、行政機関が、より効果的に水生環境保護の施策を実行できる体制であると言えよう。 (3)水事業の民営化の社会的経済的背景 民営化の議論は、従来のシステムに基づく財政状況の悪化がその端緒であった。それは、汚水処理能力の低下という欠陥において顕著であった。その後、議論は立法の過程を通じて水事業の民間部門への移行と規制部門の分離という形態に収斂する。結果として、民営化の立法は、水の管理に市場原理を適用すると共に、保水政策に重点を置いた新しい法制度の局面を作り出した。民営化を契機とした水の行政改革は、水事業が孕んでいる根本的な公法上の問題とそれに対する解決策の一つの例証となる。
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