本研究は、20世紀政治思想史について、通観的・鳥瞰的パースペクティヴを与える「通史」の叙述を目指す研究計画の一環である。すなわち、20世紀に於いて圧倒的現実として現れた、社会の持続的かつ急激な変化が常態となった社会において、政治という、思想史的には長らく静態的な社会を前提とした人的統合としての営みが、実体としていかに変容をこうむり、思想がそれにいかに対応してきたのかという観点から、一言で言えば技術の時代に於ける人的共同性の行方を追うという視角から、二十世紀政治思想史を読み直すことを目指したものであった。本年度においては、社会思想における技術の「イメージ」の受容が、技術主義的なユートピアと逆ユートピアの想像力の源泉として如何に機能してきたかという問題を中心に考察を進めてきた。社会思想における科学と技術の直接の影響は、第一次的には技術のイメージの受容において起こる。19世紀以降20世紀初頭にかけて、技術主義的なユートピア思想が、社会主義の思想的展開と密接に結びつきながら、多様な形で生み出されてきたが、第一次世界大戦とソ連の誕生の衝撃は、技術主義と社会主義とをユートピアから現実の次元へと移しかえ、技術のイメージはむしろ逆ユートピアの源泉となっていった。本年度の研究においては、こうした経緯を解釈するにさいして、技術の社会的「イメージ」としての、経済活動と軍事的破壊力という二つの側面が、20世紀における政治や「権力」の変容と密接に関連していること、そして現代の社会理論における権力概念の拡散という理論的問題と、この技術についての軍事的・経済的イメージの分裂という問題とが密接に連関していることが明らかとなった。
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