本研究を進める上で主要な活動となったのは、ワルラスにかかわる資料の収集であった。残念ながら、『ワルラス全集』の未公刊分のうち、今年度新たに刊行されたものはなかったが、一橋大学の図書館にたびたび赴き、ワルラスおよび同時代の近代経済学者にかかわる資料の収集と検討を行った。また、ワルラスおよび同時代の近代経済学者にかかわる研究文献を、主要設備として逐次購入し、検討した。 本研究の成果は、ワルラスの分配理論の中心を占める「価値変動の法則が、ワルラス純粋経済学設立の第一の思想的契機であることを明らかにすることにより、ワルラスは実は動態的分配理論の完成を指向していたこと、静態分析とされる一般均衡理論はその序論にすぎないことを明らかにしたことである。このような主張は、すでに森嶋通夫氏が、理論経済学の立場から行っているが本研究では、このような主張をするにあたって、ワルラス・モデルとリカードおよびケインズ・モデルとの継続性を主張した森嶋説への反論として、経済思想の観点から、ワルラス・モデルの方法、階級社会観におけるリカードおよびケインズとの断絶を示した。これらの成果の大部分は、『経済セミナー』で、1995年11月号より「ワルラスの経済思想(全6回連載)」の中で発表している。また、森嶋氏のすすめもあり、現在、英文雑誌への論文投稿を準備中である。
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