研究概要 |
本研究の目的は,日本において典型的に観察される雇用慣行の「システム効果」を明らかにしようとするものである.前半に理論モデルの構築と分析を行い,後半に日本にある外資系企業の人事システムを対象として実証研究を行うことを,本年度の研究実施計画としていた。 まず理論研究については,当初の計画で想定していた「企業内部の昇進パターンと外部労働市場の競争性」とはやや焦点が異なるが、「人事部の集権化と分権化」をテーマとした研究論文を完成させた.(この対象の変化は、実証研究の対象である外資系企業の歴史分析から生じたものである.)日本企業は欧米企業と比べて人事部が集権化しているといわれるが,このような人事の集権・分権を理論的に厳密に分析した研究はない.本研究では,不完備契約アプローチに基づいて,人事が集権化している場合には「過剰」な介入が生じて,組織全体のパフォーマンスが低下すること,及び,人事を分権化することによって非効率な意思決定のコストが生じるという問題があるが,人事部の過剰介入の問題が緩和されるという利点が生まれることを証明した.そして最適な形態が集権か分権かを決定する要因を分析し,日本の他の雇用慣行とのシステム効果を考察した. 実証研究については,すでに選定されていた外資系企業の人事担当者とのインタビューを行い,データの収集を継続中である.歴史的にこの企業が人事の集権化,分権化を何度か行なっていることが明らかになり,理論分析のための視点を提供してくれている.この集権化、分権化と雇用慣行との関係を詳しく探るために人事データの収集を開始したが、企業が新しい情報システムを構築中で、そのシステムがスタートしなければ必要なデータを得ることができず,研究は大幅な遅れを生じることになった。本年3月にようやくシステムがスタートしたため,実証研究はこれからの展開に期待することになった,
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