研究概要 |
本研究では,生産の専門化の尺度が内生化されたワイツマンの独占的競争市場一般均衡モデルのフレームワークに修正を加えた1市場・静学モデルの構築を行った.修正は,モデルを個別企業の生産関数から組み立てることと,マルクスが資本主義的生産の出発点を与えると指摘したタイプの生産技術を,生産の内生的専門化と規模にかんする収穫逓増の生産関数によって表現することによって行われた.これによって,従来散文的に論じられてきた協業や分業にかんするマルクスの指摘をベースにした数理経済学的モデルを記述することが可能となった.このモデルでは,一方でより大規模な生産が有利であることによって小規模な生産が駆逐され,独占化の傾向が生まれると同時に,他方で生産の専門化がもたらす効果によってその傾向が打ち消されることも示された.また,特殊ケースにおいて新古典派の規模にかんする収穫一定のときの結論が導かれることも示し得た. さらに,規模にかんする収穫逓増と新古典派の収穫一定という技術の違いによって,失業の存在(独占的競争モデル)と非存在(完全競争モデル)というシステムの性格を区分したワイツマンの考察を,より正確に行うことによって,前者で失業が存在するためには階級関係がなければならないことを明らかにした.これに基づいて,新古典派の規模にかんする収穫一定の仮定が階級社会を想定することと相容れない仮定であることも明らかにされた.マルクスの資本主義的市場経済の諸前提との比較により,本研究やワイツマンのモデルは,生産手段の私的所有を仮定すれば,マルクスの商品生産社会の前提をすべて含むことも明らかにされ,独占的競争理論の「内在的深化」を通じて,マルクスの経済理論の基本問題に踏み込んだ点も本研究の特徴である.
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