今年度は以前の研究結果の分析方法に関する再検討を行った。この研究では「真の不平等」を同一世代内の生涯所得格差と定義し、現実の日本経済で観測される資産・所得分布と整合的な生涯資源の不平等度を、世代間の富の伝達を考慮したシミュレーションにより求めた。また、資産・所得の不平等度の内、真の不平等から発生する不平等がどの程度貢献しているかについてもシミュレーションした。再検討においては、各資産・所得における真の不平等貢献部分以外の「みかけ上の不平等」度は、ライフサイクル段階の違いと成長経済における世代の違いによる生涯所得の違いからなるが、この2つの不平等度がともに経済成長に依存するため、完全には分解できないことを概念的により詳しく検討した。そのうえで、ライフサイクル要因が資産の不平等に影響する大きさを、仮にライフサイクルの所得稼得パターンを一定として、現存世代の生涯所得を等しくしたときに残るみかけ上の不平等部分として考えて、何パーセントがライフサイクル要因による不平等度として説明されるかをシミュレーションすることで評価した。結果は、例えば純資産の不平等度においては、58%がみかけ上の不平等で、さらにその32%がライフサイクル要因による不平等となった。さらに、モデルと結果の説明をより詳しくして大幅に改訂のうえ"Apparent Inequality and True Inequality"としてまとめた。今後の拡張的研究は、以下のように検討中である。 1.生産(企業)部門と政府部門を導入し、利子率、経済成長率の内生化、税制・年金による再分配政策の内生化を行うことで、より広い政策効果の分析を行う。2.親子間の所得相関、実物資産保有の不平等の拡大や相続税制の変化の定常状態への移行過程での不平等度に及ぼす効果を分析する。遺産の動機のあり方の相違の不平等伝達への効果を分析する。
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