本研究の結果は次のように考察されよう。まず第一に、従来からの社会の価値体系が「ゆらぐ」現況において、生活者が保持する生活価値意識(自己と他者及び物質と精神の対比構成による測定)は、精神的豊かさかその向上を追求する意識が物質的豊かさを追求する意識をやや上回るものの、その意識の拠り所が、生活者の一部では自己の内面に向かい本質的意識の変革を生じさせる一方、多くの生活者の生活価値意識の拠り所は、これまでの不特定な他者との連帯を意識させる社会(世間)から身近な他者との強調関係へと転換され、その関係も表層的であるがゆえに変化しやすい状態と考えられる。この状態は、われわれが想定した生活者に受容されている心理状態「個人は、自己の人格に対して何らかの意義を希求し、また、自己責任をより強く意識させられている。個人の行為はある範囲までは、自己の内部から導かれなければならず、個人性を発展させることに重点をおくことが重要と感じている」とは異なり、いまだに他者からの脆弱な束縛の中で自己の欲求充足及び自己の発展を図ろうとするものと言えよう。 第二に、それを基底として生じていると考えられる余暇重視意識では、仕事と余暇のシナジ-効果を期待する両立派(57.5%)が多く次いで余暇重視派(15.5%)、仕事重視派(15.0%)となっており、余暇と仕事の対比でほぼ同等の重視意識を生じさせていることが理解される(回答者の半数(55%)を主婦と学生が占めているが、職業別での分析においても同様の傾向が認められた)。しかし、この傾向はデモグラフィック要因に左右されることが多く、特に余暇重視意識は20代の若年層で高く、男性の40代〜50代の働き盛りの世代に減少し、仕事から解放されてまた余暇重視意識が高まるというサイクルが展開していることが示唆される。この余暇重視意識も身近な他者との強調関係が拠り所される状況(生活価値意識で他者との強調関係を維持しながら自己の欲求を追求する生活やブームとしての余暇)で、徐々に全般的に増加する傾向が伺える。この余暇重視意識の増加傾向には、日和見指向(他者との歩調を合わせる主体性の欠如したもの)によるものと余暇本来の価値認識によるものが混在し、その多くは本質的に余暇を重視する意識への変革ではないためその継続性は低いものと推定される(企業の業績不振によるリストラ等の影響による仕事重視派の増加傾向)。 第三に、このような生活価値意識や表層的な余暇重視意識に基づき選択されている余暇活動とはいえその満足意識は平均的に高く(現在の余暇活動の満足意識評価で「非常満足している」または「満足している」と回答した比率は、68.4%に上る)、余暇活動で経験される心理的状態にも高い充足感が示され、余暇満足意識の高さを規定する要因の存在が余暇本来の価値認識による余暇活動の選択がなされているセグメントから明らかにされた。 それは、生活価値意識と余暇重視意識の観点からのセグメンテーションの有効性を意味し、具体的には「協調型物質志向」で「仕事と余暇両立派」(n=79)の集団が「自由な雰囲気」を余暇活動で充足できることが余暇満足意識の高さを規定する主要因であることが理解され、余暇活動に対する期待水準も同定されていると判断された。 上記のように、本研究では生活者の余暇生活における購買・消費行動が余暇本来の価値認識から生じている場合にのみ生活価値意識と余暇重視意識の相違がその行為の説明力を高めることが理解された。しかし、余暇本来の価値追求と異なる意識に基づいて余暇活動をする生活者も多くそれらの人々の購買・消費行動を説明する要因への今後の探索が望まれよう。
|