標記研究テーマについて、フランス・モロッコ間の事例にもとづいて会計制度の「移転」を研究した。取り上げた仮説は「各国の会計制度の基底には各国の社会的な価値観があるという解釈はモロッコにあてはまるのかどうか。もし、両者を切り放して理解すべきというなら、それを正当化する論拠をどこに求めるべきか」というものである。 会計制度形成の基礎には、経済体制や政治体制の違いが存在するのは疑うべくもないが、先進工業国と開発途上国との経済的関係や歴史的関係は、会計制度形成過程に関する文化的影響という視点を複雑にしている。本研究では、モロッコ社会の特徴と経済環境、脱モロッコ化、民営化政策、証券取引所の状況を検討した上で、会計制度改革以前のモロッコ企業会計制度の考察とフランスの影響、会計制度改革に関する王令(一般企業の経理に係わる1992年12月25日適用王令および会計専門家および専門会計士協会の設立に関する1993年1月8日王令)と会計基礎原則.モロッコ・プランの編纂方針を考察した。 その結果、会計制度を見る限り、モロッコの制度は先進国の水準と比較して全く遜色がなく、土着の慣習や文化的影響を発見することはできないことがわかった。モロッコの事例は、フランス会計制度という「親」の制度を受け入れることで国際的な水準に達成しようとし、「移転」された会計制度に「順応」してきたという経済社会の変化を示している。
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