財務諸表監査の本質的機能は一般に、証明機能であると理解されている。すなわち監査人は、財務諸表の適正性に関する監査意見の表明を通じた財務諸表の信頼性の保証によって財務諸表利用者の保護に貢献する。これに対して、ゴ-イング・コンサーン問題には、将来にわたる企業の存続能力の有無あるいは企業倒産の可能性というビジネス・リスクの評価に関連する側面がある。そのため、財務諸表の信頼性の保証という証明機能の枠組みにおいてこの問題にどのように対応するかについて、否定的意見、肯定的意見、積極的肯定意見といった諸見解がみられる。そこで今年度の研究では、財務諸表監査の証明機能の枠組みにおけるゴ-イング・コンサーン問題の位置づけと対応の方向を明らかにすることを目的とした。そこでは、カナダの勅許会計士協会が公表している2つの調査報告書を検討した。1つは、ゴ-イング・コンサーン問題を含む、企業が直面する危険と不確実性に関する財務報告の改善を目的として1990年に公表された報告書である。もう1つは、企業の存続能力の有無と継続企業の前提の関係を考察し、ゴ-イング・コンサーン問題に関する会計基準および監査基準への興味深い提言を行なっている1991年に公表された報告書である。そこから得られた知見は、つぎの3つである。1.ゴ-イング・コンサーン問題は、財務諸表作成の基礎にある継続企業の前提の妥当性、ひいては財務諸表の適正性に影響を及ぼすため、財務諸表監査において常に考慮する必要があること。2.この問題に対処するためには、監査人の行為基準である監査基準のみならず、監査人の判断基準である会計基準の確率、整備が必要であること。3.とくに会計基準については、継続企業の前提の妥当性の程度に応じた多元的あるいは多層的な会計基準の確立・整備が望まれることである。
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