研究概要 |
本研究は,長い管状領域内を流れる2種類の化学物質の間で起こる界面化学反応のメカニズムを微分方程式によって記述した数理モデルに対して,解の漸近的な挙動を数学の立場から明らかにすることを目的としている。このモデルは,化学工学者が応用に根差して提案したものであり,半無限の長さの柱状領域における楕円放物型方程式系の非線形境界値問題として表される。この境界値問題に対する解の存在・一意性・滑らかさは既に知られているが,解の定性的な性質についてはほとんど何もわかっていなかった。本研究は,モデルが現象を反映していることを確かめるための第一歩として,領域内の無限遠方における解の漸近的な状態を調べた。 その結果,解は無限遠方で化学的平衡状態に対応する定数に収束することがわかり,さらに,その収束の速さまで精密に求めることができた。このことは,「管内の流れに添って遠方まで行き着いた先では,反応が充分進んで化学的な平衡状態に達する」という実際の現象に対応している。したがって,この結果によってモデルの妥当性がかなり保証されたと考えてよい。 なお,この境界値問題の数学的な難しさは,比較原理が成り立たない系であることと,拡散係数が境界において特異性をもっていることにある。この困難を克服するために,境界上で退化する重みを付加したL_2空間でのSobolev型の埋め込み不等式を導き,それを巧みに応用することにより,解の各導関数に対するLyapunov関数を系統的に構成していく手法を確立した。 これらの結果は,Osaka Journal of Mathematics Vol.32に発表した論文,およびVol.33に発表予定の論文にまとめられている。
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