研究概要 |
本年度の私の研究は主に1次元力学系におけるエントロピーの単調性と呼ばれる問題についてのものです。具体的にはある単峰写像f:(-∞,∞)→(-∞,∞)が与えられたとき(単峰とは連続かつ区分単調で単調区間が2つであることを意味する)に族f_t(x)=f(x)+tを考え、fにどのような条件があれば位相的エントロピーh(f_t)がtについて単調増加になるか?という問題です。この問題はカオス的な系を含むような1次元力学系の族における分岐の細かい構造をとらえるという意味で1次元力学系のカオスを考える上での一つの目標とされるものです。私は本年度の研究においてまず過去のこの方面の二つの研究(松元重則氏及びD. Sullivan氏)が実はある解釈の下で非常によく似たものであることを発見し、さらに、それらを発展させることで単調性を部分的に保証する手法を開発し、単調性についての部分的な結果をいくつか得ることに成功しました。ただし部分的な結果とはいくつかの数値についてh(f_t)がその値を越えるとそのパラメータより大きいパラメータについてはエントロピーがその値より必ず大きいという結果です。もちろんこの結果を全ての数値について確かめることができれば単調性の問題は解決することになります。現在のところ上記の問題の全面的な解決は難しいだろうと考えていますが、本年度の研究で得た発想は今後の研究において重要な位置を占めるものと確信しています。なお上記の成果を得る上で計算機による支援やいくつかの大学(北見工業大学、富山大学、京都大学)を訪れて行った専門家との討論は欠かせないものでした。
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