Landanの不等式は、2階の微分作用素に関して1階の微分作用素が安定な摂動であることを示す不等式である。本年度は、この不等式の微分作用素を従属半群の生成作用素に代えて作用素論的に拡張し、またこの不等式の確率論への応用を考えた。昨年度の終わり頃、愛媛大学教養部の森本宏明氏より、『エルゴード制御問題に付随して出てくる2階の非線形微分方程式(ベルマン方程式)の解法はこの不等式が重要な役割を果たすのではないか』との手紙を承った。この見解は正しく、私はこのベルマン方程式がC^2-クラスで一意解を持つことを示すことができた。またこの結果により元のエルゴード制御問題も解くことができた。エルゴ-ト制御問題は確率微分方程式に対する時刻無限大での時間平均コストを最小化するときに出てくる問題で、従来の指数減少的に定義されるコストが非現実的との指摘を受け最近になって研究されてきたものである。ところが、エルゴード制御問題はエルゴード的極限を最小化するため難しく、付随して出てくるベルマン方程式も全くと言っていいほど解かれていなかった。最近になってA.Bensonssanや長井英生氏らにより関数解析的な手法を用いて超関数の空間では問題が解かれ始めているが、C^2-クラスで解かないと制御問題への応用は難しいという面をもっている。私と森本氏との仕事は、この問題を確率論的にも微分方程式論的にも満足する形で解いたものである。 現在、これをまとめたものを確率制御問題等に関する専門雑誌Stochasticsに投稿中である。またこれを多次元に拡張したものを今年の12月に神戸で開かれる国際シンポジウム『The 35th IEEE Conference on Decision and Control』で発表するべくShort Paper にして投稿中である。さらに、コストに制御によって生じる損失分を入れた問題が最近になって解けて現在論文にまとめている(いずれの論文も森本宏明氏との共著で第一著者は私である)。
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