研究概要 |
本研究ではベクトル場の分岐によるカオスの発生の研究について以下のような成果が得られた. (1)前年度からの研究を引き継いで,ベクトル場の退化特異性からのLorenz型のカオス的アトラクタの発生の研究に一応の完成をみた.これはF. Dumortier, H. Okaとの共著論文として学術雑誌Ergodic Theory and Dynamical Systemsに掲載された. orbit-flipと呼ばれる余次元2のホモクリック軌道の倍分岐が無限回引き続いて起こるような大域的分岐現象を,ある種の区分線型ベクトル場を数学的・数値的に調べることにより見出した.これは周期軌道の周期倍分岐に関するFeigenbaum現象と類似のものであり,カオスに至る新しいシナリオと考えられる.しかし周期倍分岐の場合と異なり,無限回のホモクリニック倍分岐の集積に関するスケール則は,対応する平衡点の固有値に強く依存している.またベクトル場における分岐を数学的に理解するために1次元写像に還元し,その解析も行った.この結果はM. Komuro, H. Okaとの共著論文として学術雑誌International Journal of Bifurcations and Chaosに掲載が決定している. (3)上で述べたホモクリニック倍分岐の集積は完全に大域的な分岐であるためその数学的解析は容易ではないが,状況を余次元3のより退化したホモクリニック軌道の分岐として捉え直すことにより,その少なくともある部分は解析しやすくなると期待される.このような考えに基づいてV. Naudotと共にある種の余次元3のホモクリニック軌道の分岐を解析し,ホモクリニック倍分岐を起こすような余次元2のホモクリニック軌道が余次元3の退化したホモクリニック軌道から無限個分岐することを示した.このことは無限回のホモクリニック倍分岐の集積を直接示したものではないが,それを強く示唆した結果であるといえる.この結果についての論文は学術雑誌Journal of Dynamics and Differential Equationsに投稿中である.
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