研究概要 |
測度に対する数学的に厳密なマルチフラクタル解析は,これまで主にヘルダー連続なポテンシャル関数に対するギブス測度について行われてきた.ヘルダー連続なギブス測度を含む最も広いクラスとして,準乗法的測度に対してマルチフラクタル解析が行われている.本研究ではヘルダー連続性や準乗法的性質を持たないソフィック測度に対して,マルチフラクタル解析を行った.ソフィック測度が既約のとき,ソフィック測度を構成する部分遷移行列の積から性質のよいものを探すことにより,ソフィック測度に対応する非負の逆温度を持つギブス測度の族が構成されることと,それらが混合性を持つことが示された.また,同様にしてソフィック測度の自由エネルギーが存在することが示された.ソフィック測度で特定の特異性を持つ集合上でのギブス測度の特異性を考察し,ビリングスレイの定理を適用することにより,ソフィック測度の特異性スペクトルが評価できる.ソフィック測度の特異性スペクトルは,特異性スペクトルが最大値をとる特異性以下で自由エネルギーのルジャンドル変換で与えられることが示された.また,特異性スペクトルの最大値を与える特異性よりも大きな特異性では,一般に自由エネルギーよりも特異性スペクトルが小さくなる.このことは,これまで数学的に研究されてきた準乗法的な測度では生じない現象である. フラクタル集合の断面の次元の分布を特徴づけるものとして,次元スペクトルがある.フラクタル集合の次元スペクトルは,フラクタル集合上の一様な測度を射影して得られる測度の特異性スペクトルと関連づけられる.自己アファイン集合上の一様な測度の射影はソフィック測度となるので,ソフィック測度の特異性スペクトルについて得られた結果を用いて,既約な自己アファイン集合の次元スペクトルとハウスドルフ次元の性質が調べられた.
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