標準表現とは、時間の進行に伴って確率過程(特に、ガウス過程)が得た情報を、構造のよく知られている独立増分を持つ過程(例えばブラウン運動)とランダムでない関数を用いて表わそうとするものである。元の確率過程の持つ情報とそれを表現するブラウン運動の持つ情報が同じであるとき、標準表現されたといい、標準表現は(存在すれば)符号を除いて、一意的に定まることが知られている。平均0のガウス過程は共分散だけからその分布が決定されるが、与えられたガウス過程の標準表現をその共分散から求めることは大変困難な問題であり、我々の究極の課題ともいえる。 研究代表者は非標準表現においては、元の確率過程の持つ情報はそれを表現するブラウン運動の持つ情報より少なく、そのギャップである直交補空間がどのようにして構成されているかが非標準表現の特徴付けとなることに着目し、逆に、非標準表現を構成することにより、標準表現のあり方を考察することにした。 以前の研究において、与えられたガウス過程(特にブラウン運動)において、任意の二重可積分関数に対して、それを直交補空間の基底とするような非標準表現を、ヴォルテラ型の積分作用素を用いて構成できることを示した。今年度はその継続として、その作用素の摂動と反復について考察した。そして、この作用素が摂動に関して直交補空間の基底によらず標準性のあり方が一定であることを示した。反復に関しては、このヴォルテラ型積分作用素が可換であるための必要十分条件を求めた。
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