本課題の目的は、確率微分方程式で記述される確率力学系の研究において近年盛んにとりあげられる確率ロトカ・ボルテラ系等のいくつかの非線形確率力学系を題材に、力学的対称性と保存量の理論ならびにそれらと深い関わりのある可積分性条件に定式化に関する研究を展開することであり、それより得られた成果は以下の通りである。 (1)代表者がこれまでに定式化した確率力学系の対称性の概念から具体的な保存量を導き出す手続きを2つ与えた。1つはHojmanが2階可微分力学系にたいして定式化した結果を確率力学系に拡張したものであり、その結果はごく最近、S.Albeverioらのグループによりさらに一般化された。もう1つは確率力学系の対称変換が満たす方程式とその随伴方程式から保存量を与える手続きであり、先に述べた手続きとは異なったタイプの保存量がこれより得られた。またこれらを具体的な非線形確率系に適用し、その有効性を確認した。 (2)確率力学系の“解表現"が時間とWiener過程の陽な関数として与えられるという意味においての可積分性条件と、その系が許容する対称性との関係をリー代数の立場から考察した。その結果、系が上記の意味で可積分である条件は、ドリフトや拡散項に現れる係数関数から構成される微分作用素が、系の対称性を生成する作用素のクラスに入っているときに限ることがわかった。 (3)非線形確率力学系への理解を深めるには、その保存量・可積分性概念の対極に位置する、確率カオス系についての考察も重要であろう。この観点から、経済学の代表的景気循環モデルであり、カオス的振る舞いを起こすことでも知られる「Kaldor型モデル」を取り上げ、これを確率化した系にたいし数値実験を行った。その結果、元の系がもつ位相的カオス構造が確率化により顕在化する傾向があることが確認された。
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