本研究は、高スピン原子核からのγ線分光データの理解(各状態の構造と同定)に不可欠な量子数であるsignature(指標量子数)には、(我々の命名に従うと)内部signatureと外部signatureの2種類があり、両者の定義は一致しないこと、定量的にも対応が大きくずれうることを明確に示した。ここで、内部signatureとは回転軸のまわりの180度回転に関する量子数であり(回転軸が主軸に一致する通常の)cranking模型の保存量である。一方、外部signatureとは全角運動量の偶奇性であり、実験的に観測される量である。同じ研究機関の大西直毅教授や大学院生の協力が得られたため、計画した単j配位に関する研究をスキップし、陽子・中性子ともに一主殻を完全に考慮する現実の原子核の場合について内外signatureの対応の破れを定量的に計算することにした。その結果、主軸の周りの回転では、回転軸(=主軸)に関する内部signature+1の状態の中に、確かに外部signature-1の状態(奇角運動量状態)が混ざっていることが示された。しかし、その混入率は10%以下であった。一方、近年、K-bandを記述するために導入されたtilted-axix cranking状態(回転軸が主軸と一致しない状態)に関しては(内部signature射影を施したあとでも)、奇角運動量状態の混入率は大きいことが示された。最大になるのは、2主軸の中間の方向に回転軸を傾けたときで、偶・奇角運動量状態の確率はほぼ同程度に達する。この結果から、signature依存性を論じる場合の主軸crankingの妥当性とその精度、tilted axis crankingの危険性が示されたといえる。
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