本研究テーマでは、低エネルギー領域のハドロン現象において、中間子、特にパイ中間子の果たす役割の重要性について、種々の現象を通して具体的に示してきた。 1.Large-N_C QCDにおける代数的方法 Large-N_Cの極限で成り立つ代数関係を用いて、核子の性質を議論した。本研究では、代数表現にパイ中間子の効果を取り入れる方法を提唱し、それがg_A、g_A^<(O)>等のスピン量を再現する際に、重要な要素であることを示した。また、この表現に含まれる、パイ中間子の場の強さを示すパラメータを変えることで、クォーク模型とスキルム模型を内挿できることを示した。 2.カイラルバッグ模型 Physics Reports(North-Holland)の依頼を受け、土岐との共同研究であるカイラルバッグ模型の総合報告を執筆した。本研究では、1で得られた最近の成果までを含め、低エネルギー領域における核子の構造を詳細に議論した。クォーク模型とスキルム模型の複合性を、カイラル対称性のもとに取り入れることで、核子の性質の多くが説明されることを示した。 3.数GeV領域のハドロン物理 核子によるイ-タ中間子の光生成反応を、スキルム模型を用いて解析した。核子の励起状態N(1535)がイ-タと核子の準束縛状態となっている可能性を示し、さらに、パイ-核子チャンネルとの結合によって、実験データがよく再現できることを示した。これは、従来のクォーク模型とは全く異なった解釈であり、今後の詳しい研究が期待される。
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