本研究では超流動ヘリウム中での極冷中性子散乱において生じる超冷中性子発生率を定量的に議論するための手段として、超流動ヘリウム中で動作可能な超冷中性子検出器の改良を行った。検出器は表面障壁型のシリコン半導体検出器の表面に濃縮^6LiとTiの多層膜を形成したもので、物質の中性子に対する有効ポテンシャルを極めて0に近づけることによって、長波長の超冷中性子に対して充分な検出効率を実現するものである。初めに本研究以前に開発してきたものについて多層膜の中性子反射率を測定する事によって、どの程度の検出効率が実現されているかを中性子反射率測定で調べたところ、Tiの酸化によって総体としての有効ポテンシャルは充分0に近づいているとは言えず、およそ800Åが検出限界になっていることが判明した。多層膜には酸化防止のための保護層が形成してあるので、Tiの酸化が起こる恐れがあるのは多層膜の形成時と考えられる。多層膜の形成は真空蒸着によって行うのだが、蒸着時の真空度を向上させることによって多層膜内のTiの酸化度を抑える試みを行った。その結果、検出限界は1500Åで1500Åにおける反射率は0.6まで抑えられていることを日本原子力研究所の冷中性子ビームを用いた中性子反射率計で実証した。この結果は既に投稿済みである。なお酸化度自体が0になっているという訳ではないが、上記の性能は超冷中性子の超流動ヘリウム中での直接測定という目的には充分実用となるものである。
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