申請者は、交付期間中に、基本となる第一原理計算プログラムの並列化を行ない、大幅な高速化を計ると共に、使用可能なメモリーサイズも大幅に増やした。表面のような、対称性の低い系を扱う際には非常に重要な改善である。そしてこのプログラムを用い、水素化されたダイヤモンド(001)表面における炭素原子吸着シミュレーションを行なった。このシミュレーションの目的は、CVD法によるダイヤモンド薄膜の成長素過程を明らかにすることである。その結果、ダイヤモンド表面のC-H結合は非常に強固であるにも関わらず、炭素原子をその表面ダイマーの結合中心に吸着することによって、そのC-H結合が切れ、バリアレスに吸着原子上まで拡散することを発見した。いい代えれば、水素で覆い尽くされたダイヤモンド表面に炭素原子を吸着することにより、自発的に水素原子が表面偏析し得ることが分かった。この結果は、最近注目されているサーファクタントエピタクシーと関係付けられる。つまり、我々の結果は、水素原子がダイヤモンドのCVD成長に対してサーファクタントととして機能していることを示唆するものであった。さらに我々は、水素化されたSi(001)表面上へのシリコン原子吸着シミュレーションを行なったが、こちらでは、自発的な水素原子の移動は起こらなかった。これらの結果は、シリコン及びダイヤモンドの結晶表面において、水素原子の、結晶表面に対して垂直方向の拡散のし易さが異なることを示唆している。しかしながら、現在では、いくつかの実験結果に基づき、この、水素原子の結晶表面に対して垂直方向への拡散のし易さは、直接的には結晶成長過程に影響しないと考えられているようである。これらの成長素過程を明らかにためには、さらに表面に水平方向の拡散に関するポテンシャル面を調べる必要がある。
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