これまで、透過電子顕微鏡観察とフォトルミネセンス測定や励起スペクトル測定などの分光学的測定は独立に行われおり、2つの結果を統一的に解釈することは困難であった。通常の電子顕微鏡観察下で試料を顕微分光測定する装置を製作し、GaP中の電子線照射誘起欠陥の研究に適用した。 GaPに200keVの電子線を照射し、700K以上の熱処理を加えると、照射誘起欠陥の熱的な拡散により格子間型の転位ループが導入される。照射条件(照射量、照射温度)および熱処理条件(熱処理温度、熱処理時間)を変化させた時のループの直径および数密度を測定した。ループに集合する全格子間原子数は照射量の2乗に比例し、熱処理温度に依らない事が分かった。解析の結果は、GaとPの格子間原子対の拡散によるループの形成を示唆する。 透過型電子顕微鏡ではループを形成する照射誘起点欠陥は直接観測できなかった。この欠陥に関する知見を得るため、透過型電子顕微鏡内その場可視発光分光(フォトルミネセンス、カソードルミネセンス)測定を行った。試料は照射の有無によらず残留不純物からの発光のみを示した。照射の効果は、照射量に位存する不純物発光強度の減少として観測された。この減少は、電子線照射誘起欠陥の関与する非発光準位の形成として理解される。発光強度の減少は20K照射中には観測されないが、照射後に90Kに加熱すると強度の減少が見い出された。この結果は、(1)20K照射で導入されたフレンケル欠陥は90Kまで安定で、(2)非発光準位を生じる複合欠陥は格子間原子の熱的拡散で形成の2点を強く支持している。90Kにおいて、発光強度は照射時間の2乗に反比例して減少する。解析の結果は複合欠陥の生成に格子間原子が複数個関与することを示唆する。
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