本研究では、まずMnS結晶を育成するための電気炉の製作・整備を行った。MnSは融点が1530℃と高いため、石英管を用いて育成することは困難である。このような融点の高い物質の育成には、比較的低温での育成が可能である気相成長法が適している。今回製作した電気炉は、気相成長に適した横型で、高温側および低温側の温度制御が容易な構造になっている。炉の構成は以下のとおりである。高温側および低温側の発熱体としては2つの複螺管型発熱体を用いた。発熱体の内側に成長を行う部分である炉芯管を挿入し、その周りに3種類の断熱材をいれ、断熱性に特に注意した。高温側および低温側の温度測定には白金-白金ロジウム型熱電対を用い、位相制御方式で温度コントロールを行うようになっている。製作した電気炉の評価を行ったところ、得られた温度勾配はほぼ設計どおりのものであった。 Mo基盤状に蒸着した薄膜試料に対して正・逆光電子分光実験を行い、MnTeおよびMnSeの電子状態と比較した。その結果、Mn 3dスピン交換分裂エネルギーの大きさは、MnTeからMnSになるにしたがって、6.6eV(MnTe)、7.4eV(MnSe)、8.0eV(MnS)と大きくなることがわかった。また、共鳴光電子分光により、Mn 3d軌道と、陰イオンのp軌道との混成の度合いが、MnTeからMnSになるにしたがって、大きくなることが明らかになった。
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