研究概要 |
YbモノプニクタイドYbX(X=N,P,As)は「少数キャリアー近藤物質」等と呼ばれ、その特異な物性は、近年非常に注目され、精力的に研究が行われている。特に、少数キャリアー系での低温でのスピン相関の解明は、非常に興味ある問題である。これまでの筆者らの実験により、YbXにおいて転移点よりかなりの高温から、転移点以下での磁気秩序とは異なる別のスピン相関の発達がみられた。この特異なスピン相関が、転移点近傍でどのようにふるまうかを明らかにする事は、この系の理解に非常に重要な意味を持つ。そこで、本研究では、超低温での中性子分光実験により、YbXでの低温でのスピン相関の発達を明らかにすること、とくに単結晶試料を用いた磁気励起測定により、YbXの転移点近傍でのスピンの空間相関を明らかにする事を目的し、実験を行った。試料は、東北大理学部で作成された高品質単結晶試料を用いた。測定は日本原子力研究所に設置された高分解能三軸型中性子分光器HERを用いた。 本研究の結果、YbAs単結晶での実験では、転移点以下で長距離秩序が実現する(1,0,0.5)を中心として、全ブリリアンゾーンに広がる非常にブロードな磁気散乱を転移点以上で観測している。さらに、(1,0,0.5)では半値半巾0.3meVのシャープなエネルギースペクトルが観測されるのに対し、(1,0,0)では半値半幅1.1meVの非常にブロードなスペクトルが観測されている。この事から、転移点以上のスピン相関に2種類あるのではないかと予想している。この点を明らかにできれば、YbXの特徴である秩序状態での磁気モーメントの収縮などの現象を、2種類のスピン相関の競合によって理解できる可能性がある。そこで、今回の実験により、転移点を含む0.1〜20Kの温度領域での、(1,0,0.5)、(1,0,0)およびその周辺でのスピン相関の移り変わりを明らかにする事で、少数キャリアー系YbXの低温物の理解に重要な情報が得られると考えている。
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